労働紛争解決手続のご案内

裁判所における紛争解決手続

適切な予防策を講じても、なお労働紛争に至る場合があります。労働紛争に至った場合には、事案の性質と紛争解決手続の種類に応じて適切に対応することが使用者側に求められます。

以下、労働紛争解決手続の種類と、労働紛争が起きた場合の対処方法及び心構えについて説明します。

なお、本稿で紹介する紛争解決手続は公的機関を利用したものに限定していますが、実際には、内容証明送達などを契機として、代理人間での任意交渉による解決を試みる場合も多いです。任意交渉により短期間で適切な解決ができるケースも少なくありませんので、労働者側から代理人名義での内容証明が送達された場合には、ただちに弁護士に相談して、まずは任意交渉で解決する可能性を探ることをお勧めします。

(1)訴訟
裁判所におけるスタンダードな紛争解決手続です。未払給与(残業代)の請求、解雇無効の確認請求、ハラスメント等を理由とする損害賠償請求、配転・降格の無効確認請求等、あらゆる種類の労働紛争に用いられます。通常は労働者側が原告となり、使用者側が被告とされます。

大規模庁の場合、労働専門部に訴訟が係属します。労働専門部は、東京地裁の場合は民事第11部、民事第19部、民事第33部、民事第36部のいずれかとなります。

訴状が受理されると、裁判所が被告に、訴状と呼出状を送付します。訴状が受理されてから1ヶ月から1ヶ月半程度経過した日が、第1回の期日と指定されます(第1回期日は、訴状に同封された呼出状に記載されています)。指定された第1回期日を変更することは困難ですが、被告側の都合が付かなければ、訴状記載の請求の趣旨に関する答弁を記載した答弁書を提出して第1回期日を欠席することも可能です(答弁書が擬制陳述されます)。

被告は、まず訴状記載の請求原因について認否・反論する必要があります。その後主張・立証の応酬が数回なされた段階で、裁判所から和解の可否が打診されることが多いです。その段階で和解が不可能であれば、証人尋問・本人尋問を行うこととなります。

尋問後に和解の打診がなされることも多いのですが、和解案のすり合わせができない場合には判決まで至ります。判決の内容にいずれかの当事者が不服であれば、控訴・上告まで至ることもあります。

訴訟の期日は1ヶ月から1ヶ月半ごとに開かれるので、解決まで少なくとも半年以上、多くの場合は1年以上の時間を要します。

(2)保全処分の申立て
解雇の有効性が争われる場合に、地位保全の仮処分と賃金仮払の仮処分を求めて、労働者側から保全処分の申立てがなされることがあります。この保全処分の申立ても、東京地裁の場合には労働専門部に係属します。

労働事件の保全申立ての場合、訴訟よりも短い間隔で数回審尋期日が開かれます。この場合も、裁判所が労使双方の主張を検討した上で和解の可否を打診することが多いのですが、和解が不可能であれば、仮処分の可否について裁判所の判断が下されます。

賃金仮払いの命令が出されると解雇の日以降の賃金の仮払いをせざるを得なくなるため、証拠などから事件の筋(労働者側の請求を認める決定がなされる可能性がどの程度あるか)を早い段階で読み取って対処することが必要です。

(3)労働審判
平成18年に新設された紛争解決手続です。訴訟と比べると早期の解決が可能なので、利用件数が増加しています。

労働審判には審判官(裁判官)、使用者側審判員、労働者側審判員の3者が臨席し、3回以内の期日で審理が終えられます。

実際には、第1回期日の段階で裁判所から和解案が提示され、第2回以降の期日は、和解に向けてのすり合わせが可能かどうかが検討されることが多いです。

3回以内に和解がまとまらなければ、裁判所の審判が下されます。審判の内容にいずれかの当事者が異議を申し立てた場合には、訴訟に移行します。

第1回期日の時点で裁判所が基本的な心証を形成することが多いため、訴訟と異なり、事実上第1回期日までに双方が主張・立証を尽くす必要があることに注意が必要です。

労働者側が申立人、使用者側が相手方となるのが通常ですが、第1回期日は原則として申立てから40日以内に指定され(労働審判規則13条)、第1回期日の1週間前には相手方の答弁書及び証拠を提出する必要があるため、相手方の準備は非常にタイトになります。

したがって、労働審判申立書の送達を受けた使用者は、迅速に準備を行う必要があります。

この手続は、単純な未払給与請求など争点が少ない紛争について利用されることが予定されていたようですが、実際には、解雇をめぐる争いなど、一見長期化しそうな紛争にも多く利用されています。しかし、3回以内で審理を終える短期間の手続なので、解雇の有効性などが争われる場合であっても、申立人側は、解雇の有効性などをとことん争うというよりは、解決金支払による早期解決を視野に入れながら労働審判の申立てを行うことが多いと思われます。

裁判所以外での紛争解決手続(いわゆるADR)

都道府県労働局の紛争調停委員会によるあっせん、男女雇用機会均等法による調停、弁護士会のあっせん・仲裁制度といった、裁判所以外での紛争解決手続も存在します。以下、労働局のあっせん手続を例に挙げて概要を説明します。

労働局のあっせん手続は、都道府県の総合労働相談センターへの相談を経由して申し立てられる場合がほとんどです。申立てがなされると、あっせん開始通知書が相手方(多くの場合は使用者)に送付され、あっせんに出席する意向の有無が照会されます。出席するか否かは相手方の判断に委ねられます。

相手方が出席する意向を示した場合には、双方の都合をすり合わせたうえで期日が指定されます。

期日には、弁護士等から選任されたあっせん委員が立会い、労使双方の意見を聴取したうえで、和解を試みることとなります。

労働審判とは異なり、労働局のあっせんは原則として1回2時間限りの手続であり、また、和解がまとまらない場合に審判が下されることもありません。期日に和解がまとまらない場合には、あっせんは不調終了となります。不調終了となった場合の異議申立て等の制度は存在せず、他の手続を改めて利用するか否かは申立人の判断に委ねられます。

1回2時間限りと簡易ではありますが、申立人側の負担が少ないため、利用件数が多い手続です。使用者側から見ても、わずかな時間と労力で妥当な和解が成立する可能性があるという利点があります。実際、和解成立のパーセンテージはかなり高いものです。

裁判所を利用した手続を改めて利用されると紛争が長期化する可能性があり、かつ、一定額の解決金支払や一定条件での雇用継続などの和解案を提示できる場合には、あっせんに出席することを前向きに検討すべきでしょう。1回限りの期日とはいえ、和解案について数回入れ替わりでの応酬があるのが通常なので、弁護士を同行させて即時に意見を求めるのが無難かもしれません。少なくとも、適切な落としどころについて、事前に弁護士と協議することは必須と思われます。

労働委員会の調査手続

不当労働行為(労働組合法7条)からの救済申立てがなされた場合の手続です。団体交渉が奏効しなかった場合に、組合員であることを理由とした差別取扱い(同法7条1号)や団交拒否(同法7条2号)を理由として、労働組合から申し立てられる場合が多く見受けられます。

各都道府県の労働委員会が申立てを受け、調査期日を指定します。調査期日には、学者等から選任された公益委員、使用者側委員、労働者側委員が臨席し、双方の主張を検討します。

調査期日は、通常は複数回開かれます。時宜に応じて、公益委員から和解の打診もなされます。場合によっては審問がなされ、和解が不可能な場合には、申し立てられた救済の全部または一部を認容し、もしくは棄却する命令が発せられます。都道府県労働委員会の命令に不服がある当事者は中央労働委員会に再審査の申立を行い、再審査の内容にも不服がある場合には、裁判所に命令取消を求める訴訟を提起します。

イメージとしては、裁判所の訴訟手続と類似しているので、弁護士を代理人に選任するのが無難です。

紛争に至った場合の心構えと対処方法

とにかく、「事件の筋」を早期に読み取ることが重要です。「事件の筋」とは、証拠等と照らし合わせて労働者側の請求が認容される可能性がどの程度あるか、また、認容されるとしてどのような内容が予想されるか(全部認容か一部認容か、一部認容ならばどの範囲までの請求が認められそうか)の見通しのことです。

訴訟の提起や、労働審判などの申立てがなされたら、迅速に弁護士に相談し、事前にある程度の見通しを得るべきです。労働法に通じた弁護士に相談すれば、過去の判例等から、相当程度の見通しを早い段階で得られることが多いと思われます。

むろん、認容される可能性が乏しい請求や過大な請求を受け容れる必要はありませんが、証拠等から見て筋が厳しい場合に、無理筋にこだわって紛争を長期化させることは、使用者側にも多大な損失をもたらしかねません。

見通しをすぐには立てにくい案件(事実認定の基礎となる証拠の評価が微妙な場合、類似した先例が乏しい場合など)については、一定期間腰を据えて主張・立証を行うこととなります。専門家の知見を得ずに適切な主張・立証を行うことは非常に困難なので、労働法に通じた弁護士に訴訟等の代理を委任し、委任した弁護士と緊密に連絡を取りながら準備を行う必要があります。

使用者側から紛争解決手続を申し立てる利点がある場合

訴訟提起等は労働者側からなされる場合がほとんどですが、任意交渉の場で使用者側が穏当な解決を求めているにもかかわらず、労働者側が過大な請求に固執して譲らない場合などには、使用者側から訴訟提起や労働審判などの申立てを行うことを検討してもよいでしょう。

例えば、一定額の未払給与が存在することは争えないが、労働者側が過大な慰謝料の上乗せなどに固執して譲らない場合に、使用者側が、未払給与と遅延損害金を超える債務が存在しないことの確認を求めて訴訟提起等を行うことが考えられます。

また、解雇の有効性が争われる場合で、使用者側にある程度の解決金を支払う用意があり、労働者側も雇用の継続にまではこだわっていない様子であるが、双方が提示する解決金の額に開きがあるため任意交渉での解決ができないときに、使用者側が、当該労働者が雇用契約上の地位にないことの確認を求める訴訟提起等を行ったうえで、中立的な判断機関を介在させ、適切な解決金の支払による和解を目指すという利用方法も考えられます(※)。

※ただし、訴訟等に至ると労働者側の姿勢が急変し、解雇無効を強硬に争う姿勢に転じる可能性もありますので、解雇の有効性(もしくは解雇ではなく自主退職であること)を基礎付ける事実をある程度立証できる場合以外にはお勧めできません。

適法かつ適切な労務管理を実現するために

ビジネスをめぐる環境が変遷しても、人材が企業経営の柱であることは不変でしょう。良好な人材の確保と人材育成・人材活用の重要性は、使用者の皆様も日々痛感されているところだと思います。

労働法務に携わる弁護士の立場からこれまでさまざまなことを述べてきましたが、労働法のポイントを押さえた労務管理を行うことは、従業員の活性化にも資するところが大きいと思われます。また、法の趣旨を正確に理解しておけば、従業員の待遇にも適切に(つまり過不足なく)配慮することが可能となります。

労働法に無頓着なまま、従業員との信頼関係のみを頼りにして不用意に給与の減額等を行うと、従業員の士気を削ぐことはもちろん、使用者側も労働紛争に巻き込まれて予想外の損失を被ることがあります。また、業務量に配慮してあえて高額に設定した給与の大半を基本給としてしまうなど、労働法のポイントを外した厚遇をしてしまうと、後で残業代等の請求をされてしまった場合に大いに臍を噛むこととなりかねません。

労働法を正確に理解しておけば、低リスクかつ低コストで従業員の適切な処遇を実現することが可能と思います。適切かつ適法な労務管理を実現するために、ぜひ弁護士を有効に活用していただきたく思います。

労働案件の料金表(すべて消費税別)

1.労働訴訟・労働に関する破産申立て・労働委員会の調査手続

 着手金報酬金
経済的利益の額が300万円以下の場合 経済的利益の8パーセント 経済的利益の16パーセント
経済的利益が300万円を超え3000万円以下の場合 経済的利益の5パーセント+9万円 経済的利益の10パーセント+18万円
経済的利益が3000万円を超え3億円以下の場合 経済的利益の3パーセント+69万円 経済的利益の6パーセント+138万円
経済的利益が3億円以上の場合 経済的利益の2パーセント+269万円 経済的利益の4パーセント+738万円

  • 解雇の有効性が争われる案件については、着手金算定の基礎とする経済的利益を800万円とし、報酬金算定の基礎となる経済的利益を、800万円と対象従業員の2年分の給与・賞与の額とのいずれか多い金額から、支払うこととなった解決金の額を差し引いた額とします(解雇が有効と認められた場合には、800万円と対象従業員の2年分の給与・賞与の額とのいずれか多い額が経済的利益となります)。
  • 解雇の有効性が争われる場合で、解雇通告後相当の期間が経過している場合(労働者側が主張するバックペイが積み上がっている場合)等には、上記着手金・報酬金を協議の上別途調整させていただきます。
  • 労働者側から案件を受任する場合も、原則として上記の基準により着手金・報酬金を決定します。
    ただし、解雇案件を労働者側から受任する場合、報酬金算定の基礎となる経済的利益は、解決金の支払により解決した場合には取得した解決金の額を、解雇無効の判決を得た場合には、800万円と2年分の給与・賞与の額のいずれか多い額とします。

2.労働審判

 着手金報酬金
使用者側から受任する場合 40万円 経済的利益の10パーセント
労働者側から受任する場合 30万円 1.と同様の基準により計算

  • 使用者側から受任する場合には準備期間が限られタイトなスケジュールとなるため、労働者側から受任する場合と着手金の差異を設けました。
    ただし、労働審判が原則3回以内で終了する手続であること等に鑑み、使用者側から受任する場合の報酬について配慮しました。
  • 労働審判に異議を申し立てられ、あるいは異議を申し立てて通常訴訟に移行した場合、1.の基準で算定した着手金と労働審判着手金との差額を申し受けます。また、その場合は報酬金を1.の基準により算定します。
  • 解雇案件の労働審判が和解により解決した場合の経済的利益の算定方法は、1.と同様とします。

3.従業員・元従業員との任意交渉

着手金 20万円
報酬金 1.の基準により算定した額の3分の2

  • 従業員・元従業員に弁護士が代理人として就いた場合の規定です。
    合同労組等との団体交渉については、着手金の額を40万円とします。
  • 交渉が奏効せず訴訟・労働審判等に移行した場合は、上記1及び2の場合の着手金との差額を申し受けます。
  • 労働者側から任意交渉を受任する場合の着手金・報酬金も同様とします。

4.就業規則の作成・変更

就業規則の作成 20万円以上
就業規則の変更 10万円以上

注 いずれも、見直し・作成の量により変動します。

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当事務所では、30分無料の法律相談を承っております。お悩みやトラブルの解決はもちろん、見落としていた分かれ道とその行き方を確認するために、ぜひ有効活用してください。あらかじめ落とし穴の存在がわかっていれば、それをよけて通るだけのこと。先々のリスクが、ほんのわずかな時間で見えてくるでしょう。

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