社会的背景
バブル崩壊後、日本経済の成長神話は脆く崩れ去り、企業経営をめぐる環境は日ごとに厳しさを増しています。
健全な企業経営のためには従業員のパフォーマンスを最大限引き出すことが必要ですが、反面、従業員の人件費が経営者にとって大きなコスト割合を占めることも否定できません。
そのため、給与の不払や従業員の解雇に至り、従業員側がその適法性を争う紛争が増加しているのが現実です。
また、雇用調整のため非正規従業員の雇用割合を増やす企業も増加していますが、これら非正規従業員の処遇をめぐる紛争も増加しています。
さらに、従業員を削減した結果もたらされたオーバーワークや職場環境の悪化が、残った従業員の心身の健康を損ない、使用者側が安全配慮義務違反を問われるケースも増えています。
労働基準法の強行法規性
使用者の皆様にまず認識していただく必要があるのは、労働基準法の規定は強行法規であり、労働基準法の規定に反する労使間の合意は無効となることです。
「合意は契約当事者を拘束する」のが契約法の原則ですが、労働契約の場合は、労働基準法に反する就業規則の規定や個別労働契約書における条項は無効となり、そのような就業規則や個別労働契約書に即して労働基準法を逸脱した処遇をした場合には、合意の内容にかかわりなく、使用者側が相応のペナルティを覚悟しなければなりません。
このことを使用者側が正確に理解していないために労働紛争が生じ、使用者側が思わぬ損失を被るケースが意外と多く見受けられます。
労働法理の複雑さ
労使間の関係を規律する法律は労働基準法だけではありません。労働契約法、最低賃金法、育児介護休業法などの法律にも目配りをする必要があります。頻繁に行われる法改正もチェックする必要があります。また、労基署の調査等に備えるため、行政庁(厚労省)が発する通達を参照することも求められます。
また、労働事件の場合、判例法理が占めるウエイトが非常に大きいため、これまでに集積された判例(最高裁判例のみならず下級審判例も)の理解も欠かせません。
このように複雑な労働法理を独力で理解するのは容易ではなく、理解のほころびから予想外の紛争を招くこともまれではありません。